こちらとあちらを、『あわいの力』でつなぐと何が出てくる?
能楽師の安田登さんの本、『あわいの力』を読みました。安田さん本は何冊か読んでるけど、身体技法とか身体作法とか、そういうカラダの使い方についての本だった。能楽師なだけではなく、ロルファーなのでスポーツ系や武道系の方とは違う面白さがある。
ロルファーというのは、ロルフィングを行なう資格を持った人のこと。ロルフィングとは… 私はあんまり知りません(笑) アメリカで生まれたボディーワークということだけど、ヨガやピラティスというより、整体に近いんだろうと私は思ってる。
で、本の話に戻ると、『あわいの力』はいままでのカラダの使い方についての本じゃない。
サブタイトルは“「心の時代」の次を生きる”
著者は、そろそろ「心」に代わる何かが生まれてくるのではないか? という。その展開は、とてもしっくり来た。もちろん学術的にどうかとか、そういう認められたものではないけれども。
安田さんは、文字が出来て心ができた。心が生まれて3000年。その副作用に押しつぶされようとしているのではないか。とおっしゃる。
私は「心」を、論理とか理屈ということなんじゃないのと解釈した。
ワキが前と後ろを分け、つなぐ
論理的な展開ではないけれども、能は異界を扱う。そして、安田さんのワキ方は、あちらとこちらをつなぐそうだ。それは「着物の脇の縫い目(ワキ)が着物の前後を分けると同時につなぐよう」なものらしい。
ぜんぜん知らなかったけど、着物の前と後ろ、そのワキという説明はとても分かりやすい。本に書いてないことでもっと言うと、袴はその着物の上から穿き、帯で締めていく。洋服のような単純な構造ではなく、回って回って入れて刺してぐるぐる巻いて結ぶ。あちらとこちらをつなぐのがワキなら、紐や帯というのは、それを包んだり締めたり結んだりするから、安田さんの書かれていること以上に複雑だ。
とまあ、そんな意味不明なことを書いていてもしょうがないので、私がどう腑に落ちたかというと、言葉とか論理だけで突っ走っている現代は病んでいる。もっと内なる声を聞かなきゃいけない。考えずに感じなきゃいけないということじゃないのと。そんな風に解釈した。
ISISフェスタ 安田登氏 インタビュー動画
スピリチュアルな話じゃなくて、もっと単純に言うと、脳は騙されやすい。カラダ、特に腑はなかなか騙せない。騙せない腑にもっと従ってもいいんじゃないのか。そんなことなのかなと思う。違う言い方をすると、心理学だって無意識を扱うわけだし、そうすると今の社会現象は、なんでもかんでも表層的に扱われ過ぎなんじゃないだろうか。
安田さんの動画を見て、ああ、袴というのはこんなに腹を支えるのかと改めて認識した。私も合気道や杖道で袴を穿くけれども、こんな風な腹にはならないよなぁ。
Noboru Yasuda 安田 登 - TEDxSeeds2010
江戸時代に鉄砲を禁止した知恵
本筋の話ではないけれども、松岡正剛さんとの話で「江戸時代に、それまで広まっていた鉄砲を禁止した。武器を退化させるということを考えた人が江戸幕府の初期にはいた」的な内容が書いてあって、ハッとした。まったくそうだわ。
そのことによって、火薬の技術を活かして各地で花火製造が盛んになったそう。もちろん鎖国したからできることだけれども、文化ということでいえば、退行させることで生まれるものもあるんだなぁと、新鮮な驚きだった。考えてみれば、当たり前なんだけど。
江戸時代の手による技術の繊細さって、もしかしたら明治以降は相当レベルダウンしたんじゃないのって気がしたり。
あわいの力 「心の時代」の次を生きる (シリーズ 22世紀を生きる)
- 作者: 安田登
- 出版社/メーカー: ミシマ社
- 発売日: 2013/12/26
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (3件) を見る