ブラック企業激論のバカバカしさ
金曜日の夜、風呂から出てきたら、朝まで生テレビをやってた。ちょっと見てたら、政府系の委員をしている派遣会社社長はもちろん、堀紘一さんやそして司会の田原さんも。シルバー組は世の中のことをあまりに知らないのか、知らないふりしてるのか、これが論客だなんて信じられないほどのバカバカしさに、見るのをやめてしまった。
金曜日は、「2020年に必要なチカラ」なんていう某人材ビジネスの最大手が言ってることに関して、ゆるい記事を書いてたのに、世の中はこんなに影響力のある人たちが、おかしな方向にミスリードしてるんだな。
一方、ブラック企業にいる若者から労働相談を受けているNPO法人の代表も、さすが現実に起こっているいることの手口に詳しいけど、ナイーブ過ぎるのか、なんなんだろう。ぜんぜん話が噛み合ってない。
意外にも勝間さんが現実を知ってるし、シルバー組と張り合えそうだと思ったけど、シルバー組の聞く耳持たなさ加減にどうにもならない。
私もなぁ、役にも立たない、ふんわりしたこと書いてちゃダメだわ、と思った。
法律という基準
まず弁護士の言ってること。
「労基法に違反している企業は違法なのであって、ブラック企業と一緒にしてしまうのはおかしい。労基法に違反していないのにブラックとしてしまうのは、いかがなものか」的なことを言っていた。
法律家的だし、もっともらしく聞こえるけど、労基法に違反してると内部告発したら、告発した本人はいったいどうなるの? 改善命令が出たところで、なにがどう改善されるんだろうか。
トヨタをはじめ名だたる企業が偽装請負をやっていたけど、告発されたキャノン/当時の経団連会長は「法律がおかしい」という趣旨のことを言ってたし、政治に圧力をかけた。ブラックの代表のように言われてる会社のトップは、国会議員になった。
弁護士の言ってるように、法律が絶対的な基準だなんて、現実にはあり得ない。
コンプライアンス(法令遵守)ということが言われるようになってきてから、企業の「法令遵守いたします」は、ほとんどの場合、内部的には法律で規定されていないことは何をやってもいいというのと同じ意味だ。
それが一概に悪いと言えないのは、酒税法から逃れて、安いお酒を造るというのが、第二、第三のビールというやつ。こういうのは間違いなく企業努力だし、何も悪いことをしているわけじゃない。
でもブラック企業といわれるところは、当然のこととして、法律の穴を探してるし、告発されたところで政治に圧力をかけられるなら、法律が基準だなんて、何の意味もない。NPO法人の代表が言ってたけど、まさに大手がブラックだから、そうなる。
弁護士が言ってることは、現実を無視した、ただのごまかし。
やめればブラック企業は成り立たない?
基本的には、私もそう思う。ただホリエモンなんかもそう言ってるけど、そう発言する人にほぼ共通しているのは起業しろということ。誰もが起業できるわけじゃないし、そういう風に単純化してしまうと、ブラック企業について議論する意味なんてないし、労働基準法さえ意味がない。
それとホリエモンは間違いなく、法律や制度や常識の抜け穴を探してきた人だ。
逮捕後のライブドアに呼ばれていったことがある。ひとつのフロアに何社もあるけど、人は重なってて、けっこう笑えた。1社だけの純粋な社員は、ひとりもいないとかね。わかりやすくいえば、コンビニが「食料品店」「酒屋」「雑貨屋」「ファストフード」「本屋」「各種公共料金受付」と複数の看板を出してるようなもんだ。そういう厚かましいことは、普通の人にはできないでしょ。
番組で言われてた洗脳されてとか、大手にいたいと思うからとかって理由もあるかもしれないけど。シルバー組や起業家や政府絡みの人が甘えだと切り捨てるようなことだけじゃなくて、辞めるに辞められない仕組みというのは確実に作られてる。
番組内では店長がどうのこうのと、さんざん言われてたけど、まず大手のチェーンオペレーションというのは、そもそもキレイなピラミッド型になるように考えられている。堀紘一さんなんかは、そんなこと知っているはず。ピラミッドになるように、どうしてるかも知ってるはず。知らずに、ビジコンなんて出来ないでしょう。
通常、学歴で、店長で辞めさせる人、その上のスーパーバイザー的な役割など本部スタッフにまで昇進させたい人というのが、入社した時から人事的に区別されている。これは欧米式じゃなくて、たぶん日本独特のやり方かも。もちろん本人に知らされてるわけがない。
じゃあ、店長で辞めさせることになっている人が、店長の立場でどれぐらいやっているか。仮に設定が3年として、2年目に本人が辞めたいと言ったらどうするか。店長は、大勢のアルバイトのシフトなどもやっているから、自分が辞めると混乱するのは目に見えてる。だからもうちょっと、我慢してくれと言われると、我慢してしまう人が少なくない。人間関係と立場での縛り。
そこで我慢してしまっても、半年も過ぎれば辞めていいという仕組み。
大手はほぼそうだと思うけど、その中でもまともな会社は、独立制度を設けてたりする。ただ想像してみればわかると思うけど、一店舗の規模が大きく、イニシャルコストが大きすぎる業態では、そんなことが誰にでも出来るわけがない。
どんな人材を採っているか
私と利害関係のないSE系の会社の人事をしている人が、大学生と話してたあと私に、「今はもうクセのある人は、採らないですよ」と言った。
私が「それは見た目のこと? それともしゃべってみて性格的にですか?」と聞くと、両方だという。採用活動で忙しい忙しいと言ってる人なんだけど、要するに人気がない業種なのに、人を選びまくって採用している。
その会社は、基本的に業務請負。中堅の上の方だと思うけど、文句を言い出してトラブルになりそうにない人を最初から選んでる。
ブラック企業が辛ければ、辞めればいい。ブラック企業に行かなきゃいいというのも、もっともらしく聞こえるけど、派遣や業務請負というのは法律的に認められている。でも、こういう仕組みが拡大していけば、そもそも精神的にキツイところにしか、行けなくなりつつあるのも現実としてあるんじゃないだろうか。
わかりやすい例が思い浮かばないけど、日本では法人間の取引に契約という概念がなかなか浸透しない。取引価格が決まってるなら、提供するサービスも決まっているはずなのに、決まっていないことを要求するなんて、頻繁にある。契約書があって仕事を進めていても、それぐらいやってくれてもいいじゃん、みたいな。お・も・て・な・しの気持ちでしょうとか(笑)
吉野家に入って、牛丼並を注文して、その料金しか払ってないのに、おしんこぐらいサービスしてよという感覚。
これは外資であっても、同じ。なぜなら、発注しているのが日本人だから。外資のドライさと、日本人のあいまいさや甘えが同居してて、最悪な状態。まあ法律に意味あるのかというのと、似ている。
個人が仕事する上でも、どういう雇用でも、契約がある。だけど、日本では通常守られないケースは多々あるという気がする。法人間取引と同じように。
ブラック企業問題だけじゃない。アメリカと日本の悪いとこ取り
こんな動きもある。
「2020年に必要なチカラ」にも書いたように、正規雇用というのがほぼなくなるという予測は、政府がそういう方向に持って行こうとしている動きなんだと思う。厚生労働省の研究には、たぶん大勢の企業人、派遣会社の社長なんかも入ってるだろうけど、安倍首相が「BUY MY ABENOMIX」と演説したのは、外資を呼び込みたい。呼び込まなきゃ、日本の成長はないと考えているはず。その裏側には、人を雇いやすく、解雇しやすい仕組み作りとセット。もうすぐ臨時国会には、「解雇しやすい特区」構想というのが出るそうだ。
たぶんこういう流れは止めようがないだろうけど、アメリカと大きく違うのは、ルール違反をしたら、政治的にも叩かれるということ。外資の場合は、ボードメンバーだって、すぐ責任を取らされて辞めさせられる。
日本では、大手企業が違反をしても何のダメージもない。マスコミも世間も、大手が弱体化したらとんでもないことになると考える。国際競争力とかね。
法令違反ではないけど、社員や関係者以外まったく困らないはずのJALが、税金で救済されたでしょう。
アメリカ的な雇用の市場化がどんどん導入されてるのに、日本人的なあいまいさは、そのまま残ってる。なにも政治や制度の問題だけじゃなく、朝生を見てると、オピニオンリーダー的なシルバー層が、かなりの問題だ。
実際の世の中でも、シルバー層だって、若い経営者たちだって、安く製品やサービスを提供することが不可欠だと思ってる。だからアメリカ的な雇用の市場化は必要だと考えながら、日本人的な過剰なサービスは忘れていない。個人にもそれを求めるから、とんでもないことになる。
確信犯的なブラック企業。構造的にブラックな仕組みを持っている会社。それ以外でもアメリカと日本の悪いとこ取りをしている企業の多さが、若者雇用の不幸。
少なくとも、そういうことをわかってる人が上にいない会社からは、逃げた方がいいのよね。
今日のBGM-298【 David Bowie - The Next Day 】
悪いとこ取りしてない会社は、たぶん地方の、地域に密着した中小企業ぐらいしかないかも。