資本主義は死期をむかえ、アベノミクスは失敗するらしい
『資本主義の終焉と歴史の危機』という本を読んだ。こういう大げさなタイトルだと手にも取らないんだけど、帯に「榊原英資・内田樹・佐藤優・中谷厳・溝口敦 推薦!」と書いてある。なんだ、この面子は。溝口敦だなんて面白いじゃない。しかも佐藤優まで入ってるなんて、これはちょっと読んでみようと手に取った。
概ね自分の思ってることと感じ方が似ているし、なるほど腑に落ちたところが多い。そうはいっても、うん?っと思ってしまうところも少なくない。
だけど日本は資本主義なのか
そもそも経済学者や評論家の言うことなんて、ポジショントーク。占い師とそんなに変わらないけど、今まで当ててきた人かどうかが問題。竹中平蔵さんがどれだけ賢かったとしても、政策決定に近いところにいて、しかも自分のビジネスにかかわるようなところで政策に影響を及ぼしてる。そんなの大学の先生が自分の作った問題を自分で解いて、はい100点ですと自慢してるようなもんだ。
麻生さんが「企業は大量の利益を出している。出していないのは、よほど運が悪いか、経営者に能力がないかだ」と発言したという。
つまりは政策に沿ってれば、儲けてるはずだと言っているのと一緒。輸出企業であれば、円安で儲かる。土建業界など公共事業で潤ってて当たり前だと。
しかしこれを資本主義経済と言うんだろうか。
安倍さんは「東芝は国内に工場を造った」と言ったそう。そりゃあ原発企業ですからね。安倍さんが海外に原発を売ってくれている。
日銀は国債を買い支えているどころか、実態としては買い占めているらしい。そうなると市場メカニズムは何にも機能しないし、政府が日銀が買ってくれた国債の金で公共事業やるなんて、円天とか、ああいうところがやってた詐欺と本質的には同じじゃないの?
こういうのを市場経済と言うんでしょうか。なんですかね、ホント。
私はそんな風に思ってるから、日本は資本主義なの?と疑問だわ。昔、日本は最も成功した社会主義国と言われたけど、今だって社会主義ではないけど資本主義だとは思えない。
本音では細かいところはどうでもいいんだけど、資本主義の終焉というタイトルだから、資本主義がどういうものなのか、日本は資本主義なのかどうかが気になるところ。
著者の考える終焉に迫りつつある資本主義とは
ざっとまとめると、こういうことらしい。
投下した資本が自己増殖していくのが資本主義のメカニズム。ところがいまや、資本を投下しても利潤を生み出さない時代になった。
特に日本は死期の最終局面を迎えている。なぜなら利潤率とほぼ一致する10年国債の利回りがほぼゼロだから。
資本主義は、常にフロンティアを開拓しながら、「地理的・物的空間」を拡大して利潤率を確保してきた。周辺を広げることで中心の利潤率を高め、資本の自己増殖を進めるシステムが行き詰まると、こんどは「電子・金融空間」を創設し利潤率を確保している。
すっかり理解できたとは思ってないけど、概ねそういうことなんだろう。ヨーロッパの列強は植民地を拡大していったわけだし、日本のアジア進出も大東亜共栄圏と言ったって構造的には周辺を広げて、中心=日本の利潤率を高めることだったんだろう。
今が「電子・金融空間」の資本主義と言われればそうだし、実体経済 vs 金融経済ということでいえば、圧倒的に金融経済の方が大きい。しかし電子・金融空間の利潤率というところがよくわからない。
何かを生産する。その付加価値が高ければ、高く売れる。あまり付加価値がない、高く売れないと、多く売ることを考える。周辺が拡大していけば、それだけ多く売れる。
ところが付加価値の高いものでも、いまは簡単にマネされてしまうから、付加価値は急速に失われる。だから必然的に安くして、安いという付加価値を付けようとする。その主な勝者がグローバル企業。
ってことは絶対的な儲けの額は大きいけど、投下資本に対する利潤率は高くないはず。
対して金融経済って資本そのものだから、利潤率が高くなるわけがない。だってそんなに利潤率の高い投資先があるなら、モノを造る・売るの何十倍何百倍の早さでマネされる。そんな金融経済の世界で、周辺をどう作って行くんだろう。
あああ〜、投資するプレイヤーを増やすってことね。外貨預金に投資ファンド、 FXや株式などなど、個人の銀行預金はどんどん投資にシフトしてる。なるほど。
だけどこれで、資本主義の終焉というのは大げさ過ぎない? なんか甘い食べものか、苦い食べものか二分するみたいな言い方で。辛いとか、しょっぱい、甘辛いもあるんだけど。
せめて「資本主義の大転換期」とか「金融経済の罠」とかなら、理解できる。
バブルの多発と「反近代の21世紀」
著者の水野さんは、リーマン・ショックを予測したんだそうだ。それはスゴいけど、でもサブプライム問題などの原因と構造を早くに知っていれば、予測できない方がおかしい。
資本主義は大なり小なり、先行き期待でバブルが発生する。私は以前にも書いてるけど、タワーマンションバブルは遅くとも2020年前には弾けると思ってる。
ただサブプライム→リーマン・ショックの流れは、ノーベル経済学賞受賞者までもがからんだインチキ、少しキレイに言えばモラルハザードが大きくしたものだろう。
それはさておき、著者はバブルについてこう書いている。
バブルの崩壊は需要を急激に収縮させ、その結果、企業は解雇や賃下げなど大リストラを断行せざるをえないのです。まさに、「富者と銀行には国家資本主義で望むが、中間層と貧者には新自由主義で臨む」(ウルリッヒ・ベック「ユーロ消滅?」)こととなって、ダブル・スタンダードがまかり通っているのです。
信用収縮を回復させるため、ふたたび「成長」を目指して金融緩和や財政出動といった政策を総動員する。つまり、過剰な金融緩和と財政出動を行ない、そのマネーがまた投機マネーとなってバブルを引き起こす
詐欺的であれ、まっとうな期待の膨らみであれ、バブルは起こる。そしてバブルが弾けると、銀行などは国費=税金で救済するが、それ以外は自己責任で、破産しようが何しようが知りませんってことね。
結果、中間層は貧者になり、貧者はさらに貧者になる可能性が高いということなら、確かにそうなってるわ。
つまりアベノミクスの1本目の矢、異次元の金融緩和は、一部の富める者をさらに富ませ、それ以外を貧困に貶める可能性が高いってことね。
まあまあまあ、そうかも。
そうすると金融緩和は必要ないってこと?
私はアベノミクスの1本目の矢、異次元の金融緩和は、他の先進国が金融緩和してるんだから、しょうがないじゃない。異常な円高を是正するには、大胆な金融緩和をするしかないじゃんと思ってた。
他の先進国が異次元をやらないのは、きっと金融秩序を破壊しない程度で緩和するという慎重なスタンスなんだろうなと私は思ってる。安倍さんが異次元をやってるのは、そんな程度じゃ円安は定着しないと考えてるんだろう。それは、自民党のこの選挙のスローガンじゃないけど「この道しかない」に賛成だ。
ところがここまでの円安が定着したら、どんな企業だって国内で販売なんかしてるより、海外に売った方がいい。しかも原材料などを輸入せず、製品化して売れるものへとシフトするとか。
いやいや、そんなこと出来るか(笑) ソフトウェアとかコンテンツ産業とか、そんなのだけだよね。
あるいはハワイやグアムのように、完全に観光で食べていく。
いやいや、そんなこと出来るか(笑)
だから基本は金融緩和なんだけど、それをどの程度にするかというところじゃないんだろうか。
金融緩和に関して著者は、「賞味期限切れになった量的緩和政策」と書いている。
量的緩和政策似よってベースマネーを増やせば増やすほど、物価ではなく資産価格の上昇、すなわち、バブルをもたらすだけです。
しかも、グローバリゼーションの時代では、このバブルが自国内に起きるかどうかさえわかりません。量的緩和をしたところで、ドルも円も国内にはとどまらないからです。
はぁ、確かにそうかも。私はバブルじゃなくて、先進国がこぞって量的緩和をし続けているんだから、そのうち世界的なインフレが起こるだろうなと思ってる。
資産価格の上昇なぁ。そこのところの理屈が分からない。
とも書かれている。これはその通りだと思う。だとすれば、過剰マネーが海外に出ず、国内に投資されるようにすればいいってことか。
まあそれは無理だわね。第三の矢、成長戦略はよく分からないし、成長性なら後進国の方がはるかに高い。過剰マネーはちまちました成長率の国内よりも、成長率の高いところに向かうわね。
著者は脱成長こそ、ハードランディングさせない処方箋だという
私もそもそも人口減少している中で、なんでGDPを伸ばせるんだよって思う。成長って、GDPなんていうと分かりにくいけど、個人個人が仕事する上では生産性を上げ続けろってことよね。つまりは同じ業務なら、さらに少ない人数でなんとかせいってことだわ。
そんなこと現実には出来ないから、じゃあ仕事するより投資するわ、投機するわってことにしかならない。
もうひとつあるのは、奴隷を作ること。簡単に言えばブラック企業化だったり、中毒患者を作ること。
人口減少社会の中で、GDPを上げ続ける、成長し続けるってことは、そんな方向しかないんじゃないの。
安倍さんは、株価が上がりましたという。そりゃあ上がるわ。年金資金だって、ぶち込んだんだから。だけどそれにどんなプラスの意味がある? 上場企業の数字上の資産が増えたってだけだわ。早くから投資してた人は儲かってるけど、これって市場経済ではないよね。
はっきり言えば、リスキーなインチキだわ。国がやってるから違法じゃないだけで。
そういう意味では脱成長路線というのも、あるかもしれないって気がしてくる。だけど脱成長って可能なんだろうか。
ひとりひとりが持ってるお金が、強欲なんじゃないの?
各国の量的緩和による過剰マネーで、新興国の著しい成長が起こった。それは、そうだろう。でもその前は、機関投資家と呼ばれるところは銀行や生命保険会社。個人個人が預けたり払ったりしたお金が、投資先を求めてウロウロしてた。
アメリカなどでは年金資金などが、投資会社に集まり、投資先を求めて世界を駆け巡ってた。
貯金、保険、年金など元は個人個人のお金が有利な投資先を求めて高いリターンを求めたから、マネーが過剰に強欲な存在になったんじゃないだろうか。
いま先進国の政府がやっているのは、巨大になり過ぎてコントロールできなくなったマネーを、自分たちがコントロールするにはどうすればいいかと考えて、支配下に置くためなんじゃないだろうかと私は思う。その結果、さらに強欲なマネーを生み出しているんじゃないかと。
それが脱成長となったとき、リターンが少なくてもいいから、リスクの少ない安心安全な社会になって欲しいと個々人が考えられるかどうか。
たぶんこの本の著者が考えているのは、そうあるべきだという方向性だろう。きっと、かなり難しい。多くの人が今ある現実に精一杯で、この先に夢はないよと言われてどう反応するか。
アベノミクスが目指す未来は、どこにあるんだろう
対してアベノミクスは、強欲を集めて、リスクを抱えて破綻するところまで行ってしまえという方向性なんじゃないかと思う。極端な話、ハイパーインフレになれば、国の借金だって吹き飛んでしまう。そうならないように政府がコントロールしてるってことなんだろうけど、綱渡りには間違いない。
破綻するまで行くとしたら著者とは少し異なる意味で、私は世界的な資本主義の死期を迎えるんじゃないかという気がしてる。
資本主義の根本って、私的所有を認めるかどうかなんじゃないだろうか。私的所有と民主主義はかなりリンクしてる。中国は資本主義的な政策を行なってるけど、私的所有を認めていないし、そのことが誰もに投票権がある民主主義とは相容れない一党独裁の国家主義とリンクしてるでしょう。
私的所有がないことを嫌う中国の富裕層は、アメリカで子供を産んで市民権を得たり、カナダや日本で不動産を所有したりしてる。
どこの資本主義国だって、私的所有を担保しない気配が見えてきたら、それが資本主義の終焉だわ。
そう感じてる富裕層は、すでにシンガポールとかに逃げてるでしょう。
今日のBGM-366【 Teleman - Skeleton Dance 】
ドラマーは日本人ですって。この軽さが好きだわ。