今日あなたが『見てしまう人びと』になっても、不思議じゃない
見てしまう人なんていうと、ヤバい人か、逝っちゃってる人かなんて思うけど、本書で扱っているのはそういうものじゃない。「幻覚の脳科学」というサブタイトルで、心霊現象とか精神の異常さによる幻覚も出てこない。
読み進むと、帯の推薦文じゃけないけど「幻覚は予想以上に身近な存在なのだ」と思えてくる。今までは人違いみたいな見間違いしかないけど、本格的な幻覚を明日見たっておかしくないよなという気になってくる。どころか現実って何?って疑問にさえなってくる。
めちゃくちゃ面白いやないの。この著者、いったい何者? と思ったら、80歳を過ぎた神経学者で医科大学院の教授だというから、さらに驚いた。こんなに難しいテーマを生き生きと軽妙に書けるって、オソロシい若さと知的さだ。若いころはジャンキーだったらしい(笑)
こんな内容です。目次から列挙すると
静かな群衆―シャルル・ボネ症候群/ 囚人の映画―感覚遮断/ 数ナノグラムのワイン―においの幻覚/ 幻を聞く/ パーキンソン症候群の錯覚/ 変容状態/ 模様―目に見える片頭痛/ 「聖なる」病/ 両断―半視野の幻覚/ 譫妄/ 眠りと目覚めのはざま/ 居眠り病と鬼婆/ 取りつかれた心/ ドッペルゲンガー―自分自身の幻/ 幻肢、影、感覚のゴースト
ほかにも、薬物、幽体離脱、天使と悪魔、金縛り、サードマン現象など、様々な幻覚が語られています。
失明した視覚障害者が見る幻覚、シャルル・ボネ症候群
視覚を失った人たちの80%ぐらいは、像や光景になっていない幻覚を経験するという。さらに視覚障害のある高齢者の15%ほどは、もっと具体的な現実と区別がつかないほどはっきりとした、そして映画のような展開のある幻覚を見るそうだ。脳が過剰に活動した結果、幻覚を作り出すのだという。
穏やかで楽しい気持ちになる体外離脱
幽体離脱じゃなくて、書いてあるのは体外離脱です。まあ言い方の違いでしょうけど(笑) ドッペルゲンガーの章に体外離脱が取り上げられています。
経験者の言葉を引用すると
自分がゆっくり自分の体から抜け出すのを感じたのです! 自分の体から脱出して浮かび上がると、恐ろしさを感じる段階は通り抜けていて、すばらしく平和な至福を感じました。(中略)
思うに、私はこの体外離脱体験にほとんど病みつきになったせいで、神経科医から夜間の麻痺と幻覚を和らげるための治療を提案されたとき、体外離脱体験をあきらめるよりも治療を断ったのです。それが理由だとは言いませんでしたが。
そんなに気持ちいいものなら、やってみたくなる(笑)
著者によると、
体外離脱体験は、脳卒中や変頭痛の最中に脳の特定部位が刺激されるときだけでなく、皮質を電気的に刺激することでも起こりうる。さらには薬物体験や自己催眠でも起こるだろ。体外離脱体験は、心停止や不整脈、大量出血、またはショック症状が生じた場合、脳が十分な血液を受け取れないことによっても起こりうる。
と書いている。このあとも、もっと出てくるんだけど。脳が十分な血液を受け取れない状況ぐらいなら、誰にだってあることかもしれないじゃんね。
今日のBGM-371【 Pink Floyd - Learning to Fly 】