不透明なチカラですが、なにか?

テーマはいろいろ。というか絞れません。2013年7月以前は他のブログサービスからインポートしたので、リンクや画像等がなくなってるかもしれません。

『日本人と「日本病」について』という本

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お、岸田秀さんの本だ。ほとんど読んでるはずだけど、この本は知らないな。カタいタイトルだぁ。この山本七平という人は知らないしなぁ。と思いながらも買って読み始めると、これが面白い。『日本人と「日本病」について』ほど、面白くスルドイ日本論を読んだことがないわ。

 

 

このふたりは、スゴいなぁ。岸田秀は、山本七平さんのファンなそうだ。読んでないけど、「空気の研究」「私の中の日本軍」「日本人とユダヤ人」の著者だと。対談が行われたのは1979年で、翌年現著が出版される。今年、文庫本化されたものを私は読んだ。ということらしいが、ぜんぜん古びてない。

 

日本とヨーロッパの違いは、「なる」と「する」

興味深いところは、ほぼ全部なんだけど、書いてあることは日本人論なんだけど、組織論、会社論、家族論としても通用する。というか、日本人はなんでも共同体にしてしまう。
軍隊も共同体だから、戦線で生き残った人たちを集めて部隊にしても、共同体ではないから戦力にならない。この中隊長のためなら命を捨てる部下という長い間かけて出来上がった人間関係に支えられているから、支えがなくなるとどうにもならない。ドイツ軍はモスクワからベルリンまで撤退しながらも、再編成しながら戦闘を続け、ソビエト軍に大きな損害を与えた。なんて話が出てくる。軍隊という機能的集団も共同体だから、共同体でなくなるとガタガタになるということね。
簡単にいうと、『ミッション・インポッシブル』のその都度チームが編成されて、機能で結びついてミッションを遂行するなんてことには適してないわけね。

ヨーロッパは神対個人の契約が憲法みたいなもので、個人主義。その契約に背くことは神に背くことでオソロシイという歯止めがある。で、日本では憲法さえも、“自然”なものではないから、いまいち信用していないし、共同体の論理、道徳観が優先する。ということは歯止めがない。企業内の会議でも話し合いの結果、「こうなりました」と自然な成り行きであることが求められる。ヨーロッパの意志を持った「する」とは大違い。

みたいな論が、もっとも印象深かった。
なるほど先の大戦は、日本が追い込まれて参戦したという認識を持つ人が多いが「望んで戦争を起こした」わけではなく、「せざるおえなくなった」という意見だろう。アジアへの侵略は、西洋の列強から開放したする意見も多いけど、大東亜共栄圏というのも「共同体」の拡大だ。
どんな行動だって、様々な見方が出来る。確かに「した」のではなく、「なった」という視点に偏っているかもしれない。


今の日本でも、機能的集団が共同体であることを求められる

最初に古びてないと書いたけど、今では日本も機能的役割が求められていて、共同体は崩壊してるんじゃないのと感じられることは多い。私はこの本を読みながら、ついつい今ってどうなんだろうと考えてしまったけど、どう考えてもベースにあるのは共同体としての規範だ。
たとえば対談のあった1979年と比較すれば、会社の構成員は、終身雇用の立場の人は激減しているだろう。本書には「日本の社会での終身雇用制は現実よりも一種のイデオロギーですが、これも共同体への加入なればこそ終身なんでしてね。これも外国では理解されにくいなあ。終身雇用制という以上、<終身雇用契約>があるんだろう。どんな契約を結ぶんですかという質問が必ず出てくる(笑)」と山本七平さんが語るところがある。
では現在の成員は、有期雇用が多いから共同体に加入せず、割り切った機能と時間だけの契約かというと、多くの職場でそうではないだろうという気がする。アルバイト、パートであっても、職場の行事に参加することが求められているだろうし、それは会社側からの要求だけじゃない。LINEグループに入ることが求められたりするだろうしね(笑) 
前にも書いたけど、アルバイトで年末年始に入るのは、契約時に明記してある条件なら当然だけど、忙しいの分かってるんだから、入らないなんてフザケんなと怒るのは筋違い。

著名な作家が外国人労働者は必要だけど、住む地域を分けるべきだみたいなことを言ったりするのは、まさに共同体には入れてやらないということだし、それに賛同する人も、少なからずいる。
根っこの部分で家族か家族じゃないかを区別するという強い意識がありながら、でもそれぐらいして当たり前だろうという同質的な共同体規範みたいな価値観を持つ人たち。この人たちは現実の社会よりも、自分の中で分裂している意識に気がついていない。

 

天皇の任命権を剥奪する「陸軍共同体」の病

面白いというより、読んでて青くなったのがここ。山本七平さんは1921年生まれで、元軍人。軍隊経験の著述も多いそうです。
陸軍には天皇直属の参謀総長陸軍大臣教育総監の三巨頭がいた。内部で話し合う、三長官会議という「陸軍共同体」がいつの間にか出来る。まず話し合いがあって、その結果を天皇に承認を求めるという流れ。戦前の憲法では天皇内閣総理大臣の任命権があった。その天皇の決定に対して、三長官は結果的に拒否権が使える。ところがこの三人とも、それが天皇に対する不忠であると、つゆ思ってないんですね。という山本七平さんの話が出てくる。
だとすれば憲法は意味なくて、共同体の病が現実を動かしている。
これを受けて岸田秀さんが「機能集団として、機能的に最大の効力を発揮しなきゃいけないという事態に至ると、中で話し合って和を重視するという形には、非常なマイナスが出てくるわけですね」と発言している。

やっぱり、現在の日本でも通用しそうな内容でしょ。