遺伝子検査ビジネスにネット企業参入の報道で、語られてないこと
この一、二年で、遺伝子検査によるダイエットが流行してきている。通販でもやたらと増えてるし、フィットネスジムでも遺伝子検査を取り入れたダイエット指導が増えている。
ただ検索しても、成功例はなかなか見つけられない。もしかしたら検査だけが、流行っているのかもね(笑)
リンゴ型、洋梨型、どちらでもないアダム・イブ型ぐらいの分類なら、自分でわかるでしょう。これをもっと細かくして科学的根拠のあるダイエット法といったところで、下半身ばかり筋トレする。速筋ばかり重点的に鍛えるなんてことは、ダイエット以前に健康的かどうか。なにか本末転倒ではという気がします。
短期間でダイエットで成果を出しているフィットネスジムというのは、毎食事を撮って送らせるなど、徹底した食事管理と筋トレ。つまり、かなり追い込むことで痩せさせてる。
遺伝子検査で傾向がわかったところで、そこに偏った指導を“お客さま”扱いで優しくやっていたら、太ってる人が2〜3ヵ月で見た目が変わるほど痩せるのは無理なんじゃないでしょうか。
DeNAの遺伝子検査サービスMYCODEが、8月12日にスタート
春ぐらいから、いろいろ報道が出ていた。そんなに多くは出ていないけど、アマゾンで予約受付するというし、MYCODE以外には、これから続々IT系が参入してきそうです。
とりあえず、MYCODEのこと。
がんや生活習慣病、その他疾病リスクと肥満や肌質などの体質関連を合わせ、最大282の検査項目に関する情報を提供するサービス。検査を受けた人の遺伝子情報が統計学的にどのような特徴を持つのかを提示するほか、疾病リスクを低減する可能性のある生活習慣へのアドバイスなどを行う。この際、遺伝子解析に関する1400報あまりの研究論文から厳選した400報を超える論文をベースにする。
東大医科学研究所と共同研究しているというし、もしかすると日本で最も権威のある遺伝子検査サービスになるかもしれない。
ただ統計学的な特徴というのは、あくまで可能性ってことで、絶対じゃない。
ちょうど1年前に、こんなことを書いてました。
現在、報道等で顕在化しているのは、安価な遺伝子検査の精度。精度以前に、爪を切って送ったりするんだから、誰のものか取り違えるリスクだってけっこうあると思いますが。
そしてなんといっても、妻に内緒の父子関係の鑑定。これによって離婚裁判も起こっているようですが、法律は遺伝子検査による父子関係を想定していません。この先、大きな問題になりそうです。
DNA鑑定で血縁関係が否定された場合に法律上の父子関係を取り消せるかが争われた訴訟で、7月の最高裁判決は父子関係を取り消すことはできないとの判断を示した。
この先、どんなリスクが考えられるか
DeNAの創業者は「遺伝子解析ビジネスにネットを組み合わせることで新しい付加価値を生み出せる」と発言したそうです。秋からYahoo!も参入するそうです。
もちろん安価にパーソナルに疾病予防のためのアドバイスができるとか、さまざまなメリットが考えられるでしょう。ただデジタル情報になって、しかもネットにつながると、流出のリスクが飛躍的に高まります。
銀行のネットバンキングでさえ、フィッシングなどのリスクが高いですし、利用規約に定められた情報が入力されれば、法的には本人だとみなされます。
ベネッセの顧客情報流出のように、プロフィール的な情報でさえ高く売れるのですから、遺伝子情報だと桁違いの値がつくかもしれません。
遺伝子情報になにが加われば、さらに高値になるでしょうか。
就職、結婚、住宅購入などのライフステージと遺伝子情報
見出しを書いただけで伝わると思いますが、遺伝子情報は究極の個人情報。○○ガンになる可能性が統計学的に80%以上あるとなった場合、本人はどう感じるでしょうか。また他人はどう感じるでしょうか。
例えば30歳が住宅を買おうと、銀行にローンを申し込みます。この人が統計学的に40歳までに生命の危機に陥るリスクが非常に高いとなれば、銀行は貸すでしょうか。
たぶん、問題なく貸します。銀行ローンを組む時は、銀行側からの生命保険への加入が条件になりますが、それが割高な保険料になるでしょう。
遺伝子情報が流出するリスクだけじゃなくて、ネット企業が参入する場合、当然そういう方向に進むでしょう。ビッグビジネスです。
現状では、DeNAよりもYahoo!がすぐ行くかもしれません。楽天やリクルートの参入は時間の問題でしょうし、現実になったらエグそうです。
今までだって、学生の金融的なブラックリストは、重厚長大企業ほど大好きで、新卒採用向けに買ってるんですから。
『バイオパンク』という本に、書かれていること
かつて[読み終えた本]で、ゆるく書きました。
実はこの本に書かれていることって、私が書いたようなゆるい内容じゃありません。マニアックすぎる内容なので、ゆるく書いたのですが、リスクを語るなら、こういうことも取り上げておきます。
本当にそんなことをしてる? とも思うのですが、日本でも警察は研究してるだろうなとは思います。
その日は遺伝子捜査官が州政府(カリフォルニア)の管轄下にあるラボで、いつものようにチェック作業をしていた。
この日は、先きごろ有罪判決を受けた強盗犯クリストファー・フランクリンのDNAを、カリフォルニア州犯罪データベースにあるDNAプロファイルと比較していた。
カリフォルニア州警察は2008年に、プライバシーの侵害になるという反対意見を押し切って、未解決事件で保存されているDNAサンプルを受刑者のDNAと比較するという「家族性DNAサーチ」を導入した。
完全に一致するデータを拾うだけではなく、似たY染色体を有するデータも拾う。(中略)
31歳の強盗犯、クリストファー・フランクリンのDNAは、グリムスリーパー(残忍な冬眠者)の犯行現場数カ所で見つかったサンプルと部分的に一致した。クリストファーの男の血縁者が、グリムスリーパーなのだろうか?
警察は、クリストファーの父親が怪しいとみて、食べかけのピザを回収。サンプルは一致。検察は、本人は否定しているが、父親が犯人だと断定。
「家族性DNAサーチ」が倫理的に許されるのかどうか、DNAが一致したという精度がどうか。あるいは捏造の可能性がないのかどうか、などいろいろ疑問は浮かぶけれども、とりあえずそこよりも「家族性DNAサーチ」という発想。
家族性DNAサーチで連続殺人犯を逮捕するーいかにもハリウッド的な比較ゲノミクスの応用例だ。だがこの家族性DNAサーチは犯罪捜査用に警察だけが使っている独占技術ではない。(中略)
遺伝子で血縁者を見つけるサービスを提供しているアンセンストーリー・コムのサイトには、同社の検査で10万年前までの父系祖先をさかのぼることが可能だという宣伝文が載っている。
犯罪を起こすかどうかという統計学的可能性ねぇ。とりあえず本当かどうか、家系というところまで行っているのだとしたら…
ライフステージのビジネスと結びつけばとんでもないビッグビジネスになるからこそ、あっという間に拡大しそうです。

- 作者: マーカス・ウォールセン,矢野真千子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/02/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 16人 クリック: 334回
- この商品を含むブログ (13件) を見る