残業代ゼロ円の流れを、淡々と追ってみる
時系列で追えば、本来経団連や政治のやりたかったことが、見えて来る気がする。
【2005年 経団連がホワイトカラーエグゼンプションを提言】
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/042.html (経団連)
対象
●裁量労働制の対象者(ほとんどが専門職) ・・賃金要件は不要
●裁量的業務を行なっている年収700万円以上 ・・労使協定による
●裁量的業務を行なっている年収400万円以上700万円以下 ・・対象業務は法令、または労使協定によって拡大可能。
【2006年 第一次安倍内閣で労働ビックバンが提唱される】
内閣発足にあたり、竹中平蔵氏が「日本版オランダ革命」を提言
http://www.youtube.com/watch?v=K6V6gcI4x8g
日本版オランダ革命とは「終身雇用、年功序列という雇用形態への偏重から訣別し、同一労働同一賃金の原則の確立」。雇用とは"企業は利益を実現することが本義であり、その実現の為に雇用が発生する"という派生需要である。日本の労働市場は制度の不公平から格差が生じているという。
「労働ビックバン」は、ホワイトカラーエグゼンプションのほか、ニートの戦力化など再チャレンジ政策色が強いものから、女性・高齢者の就業率の向上という労働力不足対策、正規雇用と非正規雇用の区別撤廃という格差是正まで、さまざまな方針が経済財政諮問会議でまとめられた。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/cabinet/2007/decision0710.html
【2013年 国家戦略特区の区域と方針を決定。雇用方針を策定】
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/kokkasenryaku_tokku2013.html (首相官邸)
戦略特区(2014年5月1日指定)
○東京都千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区及び渋谷区、神奈川県並びに千葉県成田市
○大阪府、兵庫県及び京都府 ○新潟県新潟市 ○兵庫県養父市 ○福岡県福岡市
○沖縄県
雇用指針_基本方針
グローバル企業等が我が国の雇用ルールを的確に理解し、予見可能性を高められるよう、以下の方針で作成
① 「裁判例の分析」に当たる「総論」として、共通に適用されるルールについても、裁判所は個々の判断に際し て典型的な日本企業に多くみられる「内部労働市場型」の人事労務管理と、外資系企業や長期雇用システ ムを前提としない新規開業直後の企業に多くみられる「外部労働市場型」の人事労務管理の相違を考慮することがあることを指摘。
詳しく読んでも、どこにも方針が書いていない。 日本企業の多くはこうですね。外資系企業や設立間もないベンチャーはこうですね。というだけで、上の文章は、もし裁判になった場合、裁判所は今まで「内部労働市場型」的に判断しているが、「外部労働市場型」の実態を考慮しろよというあいまいな圧力にも思える。
【2014年1月9日 次期経団連会長が内定】
経団連は6月上旬に退任する米倉弘昌会長(76)の後任に、東レ会長の榊原定征会長(70)を起用する人事を内定。
榊原会長は、産業競争力会議の民間議員。
【2014年3月28日 国家戦略特区に東京都など指定-安倍首相】
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N34ZBC6K50YH01.html
安倍晋三首相が28日の特区諮問会議で、政府は地域を限定して規制を大胆に緩める国家戦略特区に東京都、神奈川県などの「東京圏」と大阪府、京都府などの「関西圏」、沖縄県など6区域を指定すると明らかにした。
沖縄県を「国際観光拠点」
福岡市を「創業のための雇用改革拠点」
新潟市を「大規模農業の改革拠点」
具体的な指定範囲は今後、関係地方自治体の意見を聴取した上で政令で定める方針。
この結果が上に書いた首相官邸の(2014年5月1日指定)のエリア?
【2014年4月22日 経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議】
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/goudou/dai4/siryou.html (首相官邸 資料2)
以下抜粋
「働き過ぎ」防止の総合対策
(法令の主旨を尊重しない企業の取締りの強化)
(公務員の率先垂範)
働き方改革の目標と働き方に対する新たなニーズ 【働き方改革の目標】
□意欲と能力のある働く個人(男性・女性、若者、高齢者など)の全員参加
□高度外国人材をはじめ優秀な人材が働きやすい環境の構築
□ ITなどの技術革新も踏まえた労働生産性(効率性・付加価値性)の向上
それらを実現するために
新たな労働時間制度を創設する。 ○新たな労働時間制度は、業務遂行・健康管理を自律的に行おうとする個人を対象に、法令に基づく一定の要件を前提に、労働時間ベースではなく、成果ベースの労働管理を基本(労働時間と報酬のリンクを外す)とする時間や場所が自由に選べる働き方である。 ○また、職務内容(ジョブ・ディスクリプション)の明確化を前提要件とする。目標管理制度等の活用により、職務内容・達成度、報酬などを明確にして労使双方の契約とし、業務遂行等については個人の自由度を可能な限り拡大し、生産性向上と働き過ぎ防止とワーク・ライフ・インテグレーションを実現する。
「労働時間と報酬のリンクを外す」が明記された。
【2014年5月8日 トヨタが5年間法人税ゼロ円だったという報道】
トヨタの豊田章男社長が記者会見で「ようやく、法人税を払えるようになった」と報告。ところが赤旗によれば、5年間で株主への配当は1兆円を超え、自民党への献金は1億円を超えるという。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-06-01/2014060101_01_1.html
【2014年5月31日 国会質問から年収300万円以上残業代ゼロを検討中が発覚?】
民主党の山井和則衆議院議員による国会質問で、田村厚生労働大臣から「年収300万円以下は対象にならない」を、内閣官房対象者から「対象に年収用件がかかるかどうか未定」を引き出した。「課長補佐は対象にならない」「幹部候補なら対象になる」という不可思議な話も。
現在、課長補佐の幹部候補は対象ってことよね。新入社員だって、幹部候補だって言われる採用はあるし。
【2014年6月4日 パソナ竹中氏が旗をふる労働移動支援助成金に注目】
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/150691
日刊ゲンダイが、竹中平蔵氏が旗振り 人材会社を潤わす「300億円」助成金というタイトルで、
今年3月から大幅拡充された「労働移動支援助成金」が注目を集めている。この制度で多大な恩恵を受けるのがパソナだからだ。
労働移動支援助成金は、従業員の再就職を支援する企業に国がカネを出す制度。それまでは転職成功時に限って上限40万円の補助金が出たが、これを改め、転職者1人につき60万円まで支払われることになった。しかも、仮に転職が成功しなくても、従業員の転職先探しを再就職支援会社に頼むだけで10万円が支払われる。この制度拡充を主張したのが、パソナ会長であり、産業競争力会議のメンバーを務める竹中平蔵慶応大教授だった。
と書かれている。確かに産業競争力会議では「成熟産業から成長産業へ」「雇用維持型から労働移動支援型への政策シフト」が強調されている。
しかし、再就職を支援する企業に国がカネを出すって、どういういこと。
いつから、こんなことやってるんだろう。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/roudou_idou.html
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20140604-OYT1T50181.html
「政治と経済は車の両輪。経団連として政治との連携を一段と強めていく」と発言。安倍政権に近い読売新聞は、経団連の企業献金斡旋に肯定的。
【2014年6月10日 甘利経済再生相の、産業競争力会議後の記者会見】
労働時間規制を撤廃する新しい労働時間制度について、年収1000万円以上を対象にする方針だと発表。対象は人口の3〜4%。確実なのは「労働時間規制」の撤廃。
新聞各社報道の「ニュアンスの違い」を見てみましょう。
・産経系の夕刊フジ
「残業代ゼロの対象者「1000万円超」で決着へ 約4%のエリート限定」
「残業代がゼロになる」と一部メディアが大騒ぎした労働時間規制の適用除外問題で、政府は対象者の年収要件を「1000万円を一定程度上回る額」とする方向で調整に入った。年収1000万円超の給与所得者は約4%で、大半のサラリーマンは対象外となりそうだ。
・東京新聞
「残業代ゼロ」制度の対象 「年収1000万円以上に」
最後に、こんな文章を入れ、今後の推移次第ではどう転ぶかわからないというニュアンスを軽く残している。
産業競争力会議の民間議員は四月の会合で、年収一千万円以上の専門職を対象とするなど二案を提示。その後の五月の会合では、年収要件を入れず、管理職手前の総合職を対象とする案を示していた。
・朝日新聞
「残業代ゼロ、1000万円以上 業種限定せず 政府最終調整」
政府は、対象者を「年収1千万円以上」とすることで最終調整に入った。多くの働き手が「残業代ゼロ」で長時間労働を強いられる懸念が広がっていることに配慮したが、いったん制度が始まれば対象が広がる恐れもある。
ここまでのことから、ほぼ直接的にわかること
○ホワイトカラーカラーという言葉が消えて、また復活
いまどきホワイトカラーという言い方で、どうやっても裁量労働制に入れられないのは、総務や経理ぐらいかもしれない。あえてホワイトカラーという言葉を使わなくなったのは、あらゆる職種を対象にすることが狙い?
かと思ったら、ホワイトカラーエグゼンプションは6月10日の甘利大臣の会見で復活している。年収1000万円以上なら、ホワイトカラーに限定されるということか。ブルーカラーには無関係と強調したいのか。
朝日新聞の論旨が正しければ、最終調整でホワイトカラーという言葉は、また消えるかも。
○年収は1000万円以上の設定
1000万以上なら、現実問題として、すでに管理職か裁量労働の範疇。導入したところで、経団連企業や外資のメリットはない。
これが成長戦略だなんて、どういう理屈になるのか不明。
仮に東京圏は東京都神奈川県、関西圏は大阪府京都府兵庫県のすべてだとしたら、それだけでとんでもない労働力人口。
総務省が5月30日に発表したばかりの基本集計によれば、2013年のモデル推計値を合計すると、65,723,000人。東京神奈川を合計すると、12,269,000人。大阪京都兵庫を合計すると、8,454,000人。両方で20,723,000人になって、全国の労働力人口の約31%になる。
http://www.stat.go.jp/data/roudou/pref/
これ、どこも騒いでないけど、もし3分の1近くが厚生労働省の管轄から外れたら、ものすごいことよ。残業ゼロの年収の設定よりも、インパクトが大きい。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL210KM_R21C13A0000000/
○長時間労働をなくすための、時間と報酬の切り離し
公務員は「率先垂範して」残業をしない方針。
○労働関連法の、アメリカとの同一化
安倍総理の目的は、外資の呼び込み。アメリカからはTPPにからんで、企業環境のアメリカとの同一化要求。特に、法令だけではなく、労働慣習の撤廃を求めている(はず)。
万が一、裁判になったときには、慣例や慣習法によって扱われるのを避ける。※TPPでの弁護士資格等の相互制度
ここまでのことから、推測されること
○残業代ゼロ円ほかの施策が、戦略特区で成功すれば、全国で展開。
そもそも戦略特区は、そういう位置づけ。ただ、現在の内容だと2006年の「労働ビックバン」よりはるかに乏しく、外資ウケはせず、今月末までの最終調整で変わる可能性も。
もしかするとTPPでのアメリカからの要求が、解雇条件、司法判断の同一化だけなら、今のままかも。
○大手企業は雇用に関しても、世界同一賃金、同一条件に向かう。
※ユニクロの世界同一賃金ショック
http://astand.asahi.com/magazine/wrbusiness/2013052400001.html
○正社員/雇用という概念が衰退し、あらゆる業種で限定正社員化、あるいは個人事業主化・業務請負化が進行。
個人請負という名の過酷な”偽装雇用”
http://toyokeizai.net/articles/-/51
解雇条件がアメリカと同じになるとすれば、正社員という概念はないのも同じ。
※【特報】ユニクロ、パートとアルバイト1万6000人を正社員化
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140318/261372/?rt=nocnt
※【特報】ワタミ、アルバイト100人を正社員化
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140507/264127/
○大手は日本企業であるより、グローバル企業としての行動原則へシフト
グローバル企業は、ことごとくタックスヘイブンなどを利用し、租税回避している。トヨタであっても、すでに日本企業というよりも、グローバル企業の行動原則に沿っている。日本での納税よりも、株主配当などを優先。
さらに、政策立案にも政府内部に企業代表が入って左右するアメリカ化へ
これからの方向性についての、個人的な見方
日米の悪いところ取りが、加速しそう
騒がれている残業代ゼロ円は、一応年収1000万円以上になった。今後、対象が拡大されるのは間違いないだろうから、おおごとなのは間違いない。
でも、それよりも2013年【国家戦略特区の区域と方針を決定。雇用方針を策定】と書かれていることすべてが重要。はっきりPDFとして残されているのに、これをメディアが追わないのが不思議なんですけど。
戦略特区だけだとしても司法判断を大きくシフトするようなアメリカ化を推進するなら、残業代ゼロ円よりもっと深刻な変化がとっくに始まっている。
大企業は納税せず、補助金や特例措置で得をするように、献金で政策を左右するのが当たり前のようになりつつあるし。政治の動きをあらかじめ知っている企業は、先に走り出している。
働く上での問題は、制度的にアメリカ化したとしても、外資にいる日本人、日本企業にいる日本人はどうしたって日本人だ。働く人としてドライに振る舞えう覚悟ができても、使う側になったときに契約ベースのワリキリができるかどうか。できなければ、あらゆる企業がブラック化し始める。
多くの人が時間と報酬がリンクしなかったとき、短時間で結果を出せば、現実に帰ることができるかどうか。個人的にできるような研究職や専門職なら、それも可能かもしれない。
でも多様な働き方を認めて限定正社員化といっても、アルバイト・パートにさえ忘年会や新年会出席を義務づけたり、根性ややる気を求める日本人。現在でも最悪なところが、さらに最悪になる懸念。アメリカなら、法令遵守しなかったり、パワハラ・セクハラは解雇されるだけじゃなく、損害賠償請求される。
経団連が要求するように、産業競争力会議の民間議員が提言するように、アメリカ化の波に乗っかるのは自分たちがお得だから乗っかってるけど、やることは日米の悪いとこ取りだからね。
今日のBGM-340【Britney Spears - Work B**ch】
You better work bitchって、どんなニュアンスなんだか。アメリカ化するなら、こういうことも理解できないとね(笑)