日本はどうして基地と原発をとめられないのかという本
書名は、『日本はなぜ、「原発」と「基地」を止められないのか』。
ずっと前に読んでたけど、この本のこと書くのはいろいろ面倒だなぁと思って放ったらかしてた。
そしたら昨日、朝の満員電車でこの本を読んでる若い女性がいた。社会人になったばかりぐらいの年齢だろうか。小見出しが見えて、あれ、もしかして「なぜ、止められないのか」かなと思ったら、そうだった。今どきのおねえさんで、政治的なことに興味なさそうな感じなのに熱心に読んでた。
Amazon - 日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか
自民党と公明党による安保法制が強行採決されそうだけど、私もこの本を紹介しておいた方がいい。いったいどうして「原発」と「基地」を止められないのか。この本に書いてあることぐらいは誰だって知っておいたほうがいいしね。と思うようになった。もちろん大半は事実だと思うけど、本当か?と思うところもなくはない。
個人的に経験した米軍関連の不思議な対応
前に沖縄に旅行に行ったときの帰り、レンタカーで高速道路を那覇空港に向けて走っていたら、急に流れが止まった。飛行機の時間までギリギリなのに、一向に進まない。ラジオを聴いても、何の情報も出ない。レンタカー会社に電話して時間に遅れそうだ。そちらに何か情報は入ってないかと聞くと、何も情報はないとのことだった。
1時間半ほど経って、レンタカー会社から電話がかかってきた。事故で渋滞してるから、とにかく高速道路を降りろという。そりゃあ事故だろうよ(笑) だから降りたほうがいいかどうかを判断するために、どれぐらいの事故か早く知りたかったのに。
次の出口はもうすぐだなというところで、クルマが流れ始めた。見ると、二車線の半分以上をふさぐようにクルマが二台止まってる。一台は横転してる。両方ともYナンバーだった。Yはたぶんアメリカ軍人の私用のナンバー。そりゃあ何万人も米兵がいるんだから、事故が起こったっておかしくはない。だけど2時間近くも事故車両がそのままで、警察も来てないってどういうことだ。
警察が関与できないのか、無視に近いサボタージュをしてるのか。あるいは米兵の起こした事故は沖縄警察ではなく、まず米軍に連絡する決まりなのか。とにかく、かなり不思議だった。
湾岸戦争のころ、戦争が起こる以前から、キャンプ座間か厚木基地か、米軍の戦闘機が五月蝿かった。大和市に行っていて、超低空で爆音とともに戦闘機が飛んできたのに遭遇したときは、びっくりした。これ、戦闘訓練だろと思った。
六本木では米軍のヘリが爆音をたてて超低空を飛んでいるところに、なんども遭遇した。そりゃあヘリポートがあって着陸するんだから、当たり前だろとも思ったけど、それは違う気がする。市ヶ谷の防衛省が自衛隊の基地だったとき、自衛隊のヘリはかなり上空からほぼ垂直に降りてきていて、だからか爆音がしてたという記憶はない。六本木を飛ぶ米軍のヘリはまったく遠慮がないように思える。
とまあ、米軍に関しては、私にだってそれぐらいのおかしいなと思う体験はある。
「占領軍」が「在日米軍」と看板をかけかえただけで、ずっと同じところにいる
著者は、そう書いている。そりゃあ、そうだ。沖縄の上空は100%米軍が支配しているし、首都圏も横田空域という広大なエリアを支配しているという。まあ、それは知られていることだよね。問題はここ。
米軍の飛行機は日本の上空をどんな高さで飛んでもいいことになっています。(中略)写真の中央にゴルフ場のような芝生に囲まれた住宅地があるのですが、これは基地のなかにある米軍関係者の住宅エリアです。こうしたアメリカ人が住んでいる住宅の上では絶対に低空飛行訓練をしない。
なぜでしょう?
もちろん、墜落したときに危ないからです。
写真は普天間基地周辺だけど、とりあえず六本木でもそんなんだから。沖縄はもちろん、日本人がいるところはシミュレーターの中で、人に非ずって感じの扱いね。
さらに
米軍機が事故を起こしたら、どんな場所でも米軍が封鎖し、日本側の立ち入りを拒否することができる。それが法的に決まっているのです。警察も消防も知事も市長も国会議員も米軍の許可がないとなかに入れません。いきなり治外法権エリアになるのです。
と書いています。米軍機が沖縄国際大学に墜落したときのことを題材に書かれているのですが、法的に決まっているその法とは?
日米安全保障条約と、それにもとづく日米地位協定。その中の日米行政協定なんだそうです。
「日本国の当局は、(略)所在地のいかんを問わず合衆国の財産について、捜査、差し押え、または検証を行う権利を行使しない」と公式議事録に書かれているそう。
日本は電気料金しか決められない? 日米原子力協定の仕組み
著者は、こう書いています。
「廃炉」とか「脱原発」とか「卒原発」とか、日本の政治家がいくら言ったって、日本側だけではなにも決められないようになっているのです。条文をくわしく分析した専門家に言わせると、アメリカの了承なしに日本側だけで決めていいのは電気料金だけだそうです。
うーん、そうなんだろうか。日米原子力協定って私の認識だと原子力の平和利用という能書きで、日本に核武装させないための協定だと思ってた。TPPと一緒で自由貿易と言いながら、自国の国益を追求する。日米原子力協定も同じで、アメリカの原発を日本に売りながら、アメリカのコントロール下に置くことが目的なんじゃないだろうか。
福島原発の事故によって、日本の世論が脱原発に傾いているのを、そうさせないのはアメリカなのか。原爆を日本に作らせないためのコントロールはマストだと考えていても、現状で原発をなくしていくことにアメリカの国益があるだろうか。いやぁ、それはアメリカをチラつかせることで利益のある日本人が守っているんだろう。
そもそも「占領軍」が「在日米軍」と看板を変えただけで居座っているのだって、アメリカにとっては日本に単独で軍事力を発揮させない、軍国主義化させないためだろう。そして売りたい武器だけ売る。そう思っていたら、ちょっと違うみたい。
本土の米軍基地から、ソ連や中国を核攻撃できるようになっていた
本書によれば、アメリカの公文書には最大で1300発の核兵器が沖縄に貯蔵されていた。緊急時にはそれが本土の米軍基地に運ばれ、ソ連や中国を核攻撃できるようになっていた。青森の米軍三沢基地などは、ほとんどその訓練しかやっていなかったそうだと書かれています。
いままでアメリカの核爆弾が日本に運び込まれていたという報道は幾度となくありましたが、1300発もあったのなら、日本は不沈空母どころの話じゃないですね。確かに地政学的に、ソ連や中国に攻撃するには絶好の場所。反撃されたところで、アメリカ人は在日米軍がやられるリスクがあるだけですから。
憲法第9条2項と沖縄の軍事基地化はセットだった
こう書かれています。
憲法第9条を書いたマッカーサーは、沖縄を軍事要塞化して、嘉手納基地に強力な空軍を置いておけば、そしてそこに核兵器を装備しておけば、日本本土に軍事力はなくていいと考えたわけです。(1948年3月3日/ジョージ・ケナン国務省政策企画室長との会談ほか)
誰が会談したのかとか、詳しいことは書いてありませんが、概ねそうなんでしょう。
アメリカはアメリカの国益に沿って、軍事的にいまも日本を占領し続けているのだと、私も思います。アメリカ政府にだっていろんな勢力があり、一枚岩ではないにせよ、軍事的な戦略的拠点としての沖縄、日本。経済的利益を得る場所としての日本を自由にさせる気はないのでしょう。その二点では、どんな勢力も一致しそうです。
しかし、すでに戦後70年。どうして日本政府はアメリカに自由にさせ続けているのでしょう。
統治行為論を法学上の公理のように扱う日本政府
この本が出たのは昨年の10月。そこに在日米軍が違憲かどうかを巡って争われた、砂川裁判のことが書かれています。判決はざっくり言うと
のことのようです。たぶん、一般的にもそういう解釈でしょう。
そして
つまり安保条約とそれに関する取り決めが、憲法を含む日本の国内法全体に優越する構造が、このとき法的に確定したのです。
と書いています。
最高裁では判断しない、判断できないと言っているのだから、日本国憲法より日米安全保障条約は上位に位置する。いわば天の声だと言っているのと同じですね。本書によればこういう考え方を日本の保守派は「統治行為論」と呼ぶそうです。
ところが、安倍総理は集団的自衛権の行使容認の論拠として、1959年の砂川裁判判決を持ち出しました。これって、日米安保条約は憲法より上位なんだから日本国憲法に違反しているかどうかを言うことすらナンセンスだと言いたいのでしょうか。それとも首相の言うことは「統治行為」なのだから、日本国憲法よりも上位にあると言いたいのでしょうか。
いずれにせよ、本書で書かれていたネガティブなことが、安倍総理はポジティブに使っている。アメリカ様と詰めていることに、憲法なんて関係ないんだよと。これって、保守なんでしょうか。日本の保守って、自国の尊厳ではなくアメリカに取り入ることを優先するんでしょうか。
安倍総理をはじめ、占領軍の書いた日本国憲法じゃダメだ。自主憲法制定が悲願という自民党の政治家は多いが、憲法を改正したら、日米安保条約は下位になるんでしょうか。まったく論理が破綻してて、しかも屈折してますね。
出世する「日米合同委員会」メンバーの官僚たち
在日米軍をどう運用するかについて、60年以上にわたって日本の官僚と米軍は毎月会議をしているそうです。毎月会議したって不思議じゃないですけど、でもこのメンバーは一貫して、核兵器が日本に持ち込まれたことも、また米兵が起こした強姦や事故などの処理についても関与しているのでしょうね。
日米合同委員会メンバーの官僚たちは、その後、めざましく出世しているそうです。
とくに顕著なのが法務省で、省のトップである事務次官のなかに、日米合同委員会の元メンバー(大臣官房長経験者)が占める割合は、過去17人中12人。そのうち9人は、さらに次官より格上の検事総長になっているのです。
このことって、本書の前の方に書かれているのですが、読んでて笑えました。日米合同委員会のメンバーが検事総長になる確率が高い、つまりそういうコースが確立しているのなら、憲法より上も何も、好きにできちゃうよなと。
裏の法体系を無視する政治家は、失脚させられる
著者は小沢事件と鳩山政権の崩壊についても、書いています。半年後の総選挙で大勝が予想されていた民主党の当時の代表だった小沢一郎氏の秘書が、政治資金規制法違反の疑いで逮捕された。
当時、よく言われたのは田中角栄元総理のロッキード事件。アメリカ議会の公聴会で出てきたロッキード社の証言が、日本の裁判で証拠として使われた。アメリカから、田中を起訴しろと言われたようなもんだ。ロッキード裁判のような露骨さは、なかったけど、小沢事件もどう考えたっておかしい。選挙後ならともかく、半年前に逮捕するのは悪い奴らですとイメージ付けするのが目的だ。そんな例は今までないだろう。しかもその後、冤罪が確定した。
それでも誕生した鳩山民主党政権。鳩山元首相は普天間基地の国外移設、県外移設を訴えた。実現せず、9ヶ月で失脚。
県外移設が大詰めを迎えたとき、外務省、防衛省、内閣官房から幹部を二人ずつ呼び、秘密の会合で「徳之島移設案」を伝え、情報管理の徹底を依頼した。ところが翌日の朝日新聞に会合の内容が掲載されてしまったという。鳩山元首相は「官僚たちは、正当な選挙で選ばれた首相・鳩山ではない別の何かに忠誠を誓っていた」と語ったそうだ。
普天間基地の県外移設という大仕事を、短期間でやってしまおうというのが無謀だけど、でもそれ以上に官僚たちのリークはあり得ない。朝日新聞にリークしただけじゃなく、米軍にも伝えただろうと疑われて当然だ。本書では鳩山退陣の1年後、ウィキリークスによって暴露されたアメリカの公文書によって、裏付けられたと書いてある。
その内容は、
日本のトップクラスの防衛官僚や外務官僚たちが、アメリカ側の交渉担当者に対して
「〔民主党政権の要求に対し〕早期に柔軟性を見せるべきではない」(高見澤ノブシゲ/防衛省防衛政策局長/現内閣官房副長官補・安全保障担当)とか
「〔民主党政権の考え方は〕馬鹿げたもので、〔いずれ〕学ぶことになるだろう」(齋木昭隆/外務省アジア太平洋局長・現外務事務次官)
などと批判していたという、まったく信じられないものでした。
なんか変換ができない難しい字のお名前ばかりで、由緒正しい家柄なんだろうなと想像しちゃう(笑)
アメリカの要求に乗っかっているのは日本人
日本では、アメリカに従属、過剰な配慮をしているとして「51番目の州」だと自虐的に言われることがあるが、州ならこんな扱いはされない。沖縄のように軍に基本的人権までないがしろにされていれば、とんでもなく補償しているだろう。でもアメリカは、そんなに酷いんだろうか。傍若無人なんだろうか。占領下や沖縄返還までならともかく、それ以降も?
私は末席で、何度もアメリカの政府関係者に会ったことがあるけど、単に国益に沿った要求をしているだけだ。わかりやすく言えば、アメリカ産牛肉を買え。制限するなら、合理的な説明をしろと言ってるだけだ。もちろん金額や量を保障しろというケースだってあるだろうけど、ただの交渉だ。
それに対して周囲の日本人が「アメリカ様が言ってるんだから、言うことを聞け。言うことを聞かないと大変なことになる」と虎の威を借る狐のように騒いでいるだけなんじゃないかと思う。検察人脈までアメリカが持つようにしているのは、戦略にもとづいた要求。検事総長にまでなるのは、日本国内の権力の構造がそれを好むんだろう。ロッキード事件のようなケースは、オイルメジャーが強引にアメリカ議会を動かしたということだろう。当然、そういうケースもあるだろうけれども。
アメリカの要求に対して、それに乗っかっている官僚、政治家、そして企業やメディアが70年も続けてる。要するにその方が安定して権力を握れたり、出世したり、儲かるからだけだと思う。日米原子力協定だって、いまや日本に原爆を作らせない役割以外の利益がアメリカにあるとは思えないし。裏で日米原子力協定を虎の威にしているのは、日本の利益集団だけだという気がする。
原発畑一筋の東芝社長が、「考えろ」と粉飾の圧力を各部署にかけたのと、ニュアンスは似てる。
安倍総理がやろうとしている集団的自衛権は、アメリカの要求に過剰に乗っかって、ご自分の願望を実現しようとしてるだけのように思える。朝鮮半島で有事が起こった。米軍が邦人を保護している戦艦が攻撃されたとき、自衛隊は何もできないと説明を始めた。それに対してアメリカは、自国民保護が優先で日本人の保護は、そっちでやれと言ったじゃない。ごく当たり前の理屈で、日本の国会で総理がどんな説明をしようとも、アメリカが条約で約束していること以外は関係ない。
日本がアメリカの先兵となんって「明白な存立の危険」に出て行っても、イラクのように、大量破壊兵器を持っているという情報自体が間違い。もしかすると捏造だってこともあるかもしれない。そういうことが起こっても、きっとアメリカは謝罪したりしない。有志同盟の一員として、日本も利益を得られるからいい、ぐらいに考える日本人も多いだろう。
重々承知してるけど経済的利益以外は無関心だから、集団的自衛権に賛成するのかもね。ちょうど私たちが沖縄の現状や、福島原発の今に無関心なように。
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